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    『ガラスの鍵』は、次代の映画作家たちに映画史の伝統を継承し輝きを与える傑作である

    殴られてベッドに横たわるアラン・ラッド。敵の手下2人が博打をしながら監視している


    床を這って脱出するアラン・ラッド。主人公が床を這うという行為は稀少だ


    床に接した低い窓のガラスを割って外へ飛び出すが


    上階から屋根に激突して、さらに落下。ジャッキー・チェンの遙かな先駆がここにある


    『エルダーブッシュ峡谷』では、低い扉から犬を逃がし、ラストでは、この扉から犬が戻ってきて、めでたしめでたし


    瓶を回しながら敵と駆け引き。いつ、この瓶で殴るか?という緊迫感が高まる


     ヴェロニカ・レイク出演作の一環としてとらえ、他の出演者やスタッフの知識をほとんで得ないままに見始めると、原作者の名にダシール・ハメットが浮かび上がり、期待に近い胸騒ぎが起こる。
     その予感は、想像を大きく超える形で現出した。

     黒澤明が『用心棒』を、『血の収穫』をはじめとするダシール・ハメットの諸作品からヒントを得ている、と公言していたことは広く知られている。
     この『ガラスの鍵』では、『用心棒』の説話構造という不可視の要素以上に、『用心棒』の場面そのものの原点となっている可視的な要素が多数登場する。

     最も顕著であるのが、アラン・ラッドが敵に捕えられ、監禁されて痛めつけられる場面だ。
     徹底して殴られ顔をひどく腫らせたアラン・ラッドが、うめきながらベッドに横たわり、その横では監視役にして殴り役でもある敵の手下2人が、博打をやっている。
    『用心棒』で、三船敏郎の桑畑三十郎が同じ目に遭っている場面が、すぐさま想起されることだろう。
     脱出の手段は違っているが、床を這って敵の追っ手を逃れる過程は共通要素である。
    『用心棒』では、縁の下を這い続けて脱出する。
    『ガラスの鍵』のアラン・ラッドは、這って床に接した窓ガラスを割って脱出する。
     注目すべきは次のショットだ。
     屋外のカメラに切り換わり、監禁されていた部屋が3階くらいの上階であることがわかる。
     窓を破ったアラン・ラッドは、落ちて下階の屋根に激突し、はね返って、さらに下の階へ落下し、食事をしている家族のテーブルを直撃する。
     この瞬時の空間拡大は絶大な魅力を発揮している。
     世界の黒澤明といえども、この空間表現に達することができなかった。

     床に接した窓という状況設定だけをとっても、偉大なる映画史の系譜が浮かび上がる。
     D・W・グリフィスの『エルダーブッシュ峡谷の戦い』(1913年)で、襲撃の中での緊迫と幸福なる結末の、どちらをも実現するこの窓(形状としては扉と呼ぶべきか)。
     床に接した窓は、1942年の『ガラスの鍵』を経て、1983年にはフランソワ・トリュフォーが遺作の『日曜日が待ち遠しい!』で受け継いでいる。
     偉大なる映画史の伝統を受け、次代へと継ぐ足跡を力強く残している点でも、『ガラスの鍵』の傑作性が確たるものとなっていよう。
     
     この傑作を作り上げた監督はスチュアート・ヘイスラー。
     私は、この映画の他に『東京ジョー』しか見ていないが、このような力量の作り手が存在したことを素直に驚き、受け入れたいと思う。
     『東京ジョー』においても、上階から落下して途中の屋根にぶつかる、といった運動などが変奏されており、今後、一層の研究によって、その実力を世に知られてもらいたいものだ。

     脱出場面の後も、テーブルの上にある瓶をくるくる回しながら、敵との駆け引きを続けるなど、『用心棒』に直継される運動などもあって、喜びは高まるばかりだ。
     黒澤明が、説話構造を利用した以上に、可視的な造形、設定、そして運動を受け継いでいるこの『ガラスの鍵』は、黒澤明の映画史に自覚的な視点や創造力が、映画史の中で、これまで以上に高く評価されるべきである、と私たちに知らしめ、自らが光を放つだけでなく、伝統を受け継ぐ後進の映画作家たちに輝きを与える力をもみなぎらせている。
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