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    『ベルトリッチの分身』でベルナルド・ベルトリッチが喫した二つの敗北

    大河内傳次郎が一人三役に扮した『鼠小僧次郎吉』。屋根の上で、次郎吉と目明し勘右衛門が取っ組み合います。大河内傳次郎は下になった目明し勘右衛門で、上になった次郎吉はスタントです。細かいショットつなぎの中、顔が見える方を必ず大河内傳次郎が演じています。特撮を使っているわけではありませんが、ひとりの俳優が二役に扮して乱闘する、こんな場面が映画の欲求を満たしてくれるのです。


    『ベルトリッチの分身』におけるワンショット。中央の黒いところで画面をつないで合成しています。スチールでは見えていませんが、実際には中央の黒いところに煙のようなものがかかって、分割の印象を緩和します。高度な合成には至っていません。


    ベルトリッチが必ずや意識していたであろう、ジョン・フォードの傑作『俺は善人だ』。中央より右側で画面がつながれていますが、手前にテーブルを合成することによって、分断化を感じさせません。ふたりのエドワード・G・ロビンソンが、いつ同一画面内に収まるのか? それだけでも極上の緊迫感です。



     配色、モノローグ、文字…。
     これらを見る限り、ジャン=リュック・ゴダールの完全影響下にある、と見なされても仕方がないだろう。
     しかし、音声とそれを発する人物の不一致、文字のみの画面などは使用されていないから、徹底したゴダール踏襲にはなっていない。
     時代を先導するゴダールをちょっと真似てやる、くらいの遊び心で、ベルナルド・ベルトリッチの真に追求したいものを他にあったはずだ。

     想像でしかないが、ベルナルド・ベルトリッチは、この作品で、予算をかなり自由に使えたのではないか。
     ジョン・フォード(バンブーハープ)、セルゲイ・エイゼンシュテイン(階段と乳母車)、カール・ドライエル(影の分離)など、愛する映画へのオマージュが均衡を逸して多用されていることに、経済的自由が投影されている。
     同時に、持続する影の運動(扇風機)、階段での長い影(カメラを横にして長い階段を収める大胆さ)、実体から分離する影と影の攻撃、といった多様な影が、この映画の大きな魅力を形成していることから、ベルナルド・ベルトリッチは自由にその作家性を発揮していることも察せられる。

     しかし、対照的な人格を持つ二人の人間を同一の俳優が演じる、誰もが知る言葉である「一人二役」を設定してしまったことにより、登場人物だけではなく、ベルナルド・ベルトリッチ自身も迷宮に迷い込んでしまった感じがする。

     一人二役は、その最も偉大な体現者である大河内傳次郎が、いくどとなく映画史に残る一人二役(一人三役さえも)を演じ続けてきた。
     ベルナルド・ベルトリッチは、この映画を作った時点で、おそらく大河内傳次郎の映画を見てはいないだろう。
     しかし、ジョン・フォードと、彼の監督下で一人二役を演じきったエドワード・G・ロビンソンという偉大な二人の映画人を通して知ることにより、自分も、という創造意欲にかられていたことは想像に難くない。
     
     壮大な志をもって映画史へ挑んだものの、残念ながら、結果は映画の欲求に応えるレベルから遠いものでしかなかった。
     ひとつの画面に同一俳優を同時に存在させる合成場面が多用されるのは必然ながら、いずれもが左右に分割されたふたつの画面を中央でつなぐことにより合成した同時存在にとどまっている。
     同一俳優が、ひとつの画面内で接触し、重なり合ってこそ、一人二役の特殊撮影は完成し、私たちを感動させるのだ。
     予算を自由に使える身でありながら、その域へ踏み込まなかったベルナルド・ベルトリッチは、まず第一の大きな敗北を喫した。

     先述した通り登場人物二人の人格を処理する上で自ら迷宮に迷い込み、言い方を帰れば、収拾がつかなくなってしまって自暴自棄のまま「FIN」を出してしまったとしか見えない展開と結末が、第二の大きな敗北だ。
     整理された脚本、ゴダールからの脱却、二人の人物というテーマの咀嚼など、この映画におけるさまざまな問題点を解決した結果が、『暗殺の森』のような成功作へとつながる。
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