ムエタイのミットは、階段蹴りの日。
虫の知らせか、大事をとって7本までにしておこう、と始めたら、右の下りで、軸足の着地がずれ、靭帯を傷めた。
着地は、蹴り自体よりも危険が大きく、これで怪我をする人は多い。
自分でも十分注意していたつもりだったが、油断があった。
虫の知らせが当たってしまった。
以後は、膝を伸ばしきることと、90度に曲げることができなくなり、動作や技を限定しながら続ける。
特に、古式ムエタイは腰を落とす構えになるので非常に難しく、開き直って競技ムエタイのアップライト構えで行わざるを得なくなる。
回転技や飛び技も動作を限定。
ただ続けるだけ、という状況は辛かった。
せっかく進化を続けていたのに、また足踏み、あるいは出直しか、と一瞬は思う。
ところが、次の瞬間、左膝が曲がらないのなら、さて下半身はどうやって鍛えよう? 他の部位に比重を高めてもっと鍛えよう、という気持ちが湧いてくる。
さらには、このところ、ずっと休んでいなかったから、この機会に休んでおくのもいい、休むとは何と甘美な行為だろう、とも思えてくる。
夏には、休むことが、あれほど怖かったのだが、たいへんな心境の変化だ。
椅子から立ち上がる際も膝が痛いのだが、池田秀幸先生の唱える「4呼間」の動きを使ってみると、膝に負担をかけることなく立ち上がることができる。
怪我によって極意を実感してしまった。
怪我をしても楽しめる。
とうとう、こんな境地に達することができた。