リング上にてワイ。これは開始前のワイです。
タイフェア「ムエタイスペシャルステージ」2日目。
駅からの道順やリング周辺の環境などを把握済みがゆえに、不安なく準備に入ることができる。
問題だったバープラチアットは、事情を理解してくれている仲間の人にきつく結んでもらい、こちらの準備も万端。
何の準備運動もなしに、いきなりできてこそ武術の本質だが、今回は演武なので、より良い状態で見てもらえるよう、ひと通りの動きをリング下で反復して汗を流し、全員でリングに上がって流れのリハーサル。
そして本番。
慎重にリングインし、リング下の客席を笑顔で見渡してから、背面の看板を見て自分の位置を確認する動作を意図的に行って余裕を見せてから、ワイをしたまま全員の整列を待ち、演武開始。
基本型の抽出版は決めの長さを重視し、メーマイはひとつひとつの動作を明確に区切り、ムエコチャサンは粘りの動きを強調する。それぞれの意図に適した動きを実行することができた。
対人で、私たちが行うのはサラッファンプラー、カリンハットゥワン、クンヤックパナン。そして全員でルーシーボッヤー。
サラッファンプラーでは、ロングの間合いから開始して距離が詰まっていく展開。
カリンハットゥワンはテッの応酬を、体で受けたり、くらったりするのではなく、膝カットのカオバンをリアルに行っているように見せながらも実は膝との接触はない、という方法で成功させ、「怪我をしない」という目的の達成に大きく近づいた。
クンヤックパナンは、相手の左ジャブに左ハイを、右ストレートに右ハイを合わせる最高度のカウンターを、しっかり蹴りを止めて誰の目にも把握できるようにしてみたが、果たして…その反応はつかめなかった。
最後のルーシーボッヤー(大腿に足を乗せて脳天に肘打ち落としの大技)は、やられ役なので、強烈にリングへ倒れ込んで無事終了。
昨日は、悔しい思い半分で終了したが、今日はできる限りのことをやった!という気持ちで終わることができる。
ワイをして、観客席からの拍手を受けながら、身体の中心から幸福が湧き上がってくることを感じる。
昨日は、開始前から祝福を外から受ける感覚をもつことができた。
しかし、今日は内側から湧いてくる。
これがワイなのだな。
ワイは、目上の方や相手に敬意を示す「挨拶」と定義されているが、感謝しながら両掌を合わせることが、幸福を実感する動作にもつながっているのだ、と初めて理解でき、感動があふれてきた。
古式ムエタイの修練を積み、リングに上がって演武をし、ワイを通して感謝と幸福の動作を体得する。
ついにワイの意味まで体で理解できるようになったとは感慨深い限りである。
ムエタイはあくまでもタイ人のもの。試合でもエキシビジョンでも、タイ人がやってこそ価値がある。
そういう強い思いがあり、昨年、先生から演武を行うよう依頼されたとき、初めはお断りした。
しかし、先生の強い奨めで参加することになり、昨年に引き続いての今回は、ワイを理解するに至った。
演武をさせる、ということは教育なのだ。
決まった場所と時間に、仲間うちだけで練習しているのでは会得できないもの。
それがリング上にある。
試合に出ること、観客の前で演武などを行うことが、それである。
今回のエキシビジョンマッチでプロフィールを提出する際、戦績をまとめてみたところ、打撃格闘技だけで32戦していたことがわかった。
しかし、13勝19敗と負け越しており、試合に勝った喜びが少なかったことを、この数字で改めて思い知らされた。
このままではやめられない。優勝するなりタイトルをとるなり、結果を残したい。そう思いながらも、ダメージの蓄積はいかんともしがたく、試合から遠のかざるを得なくなった。
試合と演武は大きく異なるが、それでもリングに上がって観客の前で演武を行う意義は、試合に出る異議に匹敵する大きさがあると確信する。
リング上でしか学べないことがあるとわかっているからこそ、先生は演武を行うことを強くすすめてくれたのだろう。
そうして、私はワイの意味を学べて、また一歩前進することができた。
新たな一歩を、単に教授する、という方法ではなく、自主的に動かさせてつかませてくれた岡田敦子先生の教育に深く感謝します。
そして、共に修練に励んでくれた仲間の皆さんに感謝します。
ムエタイスペシャルステージの場を企画・制作してくださった主催者の方々に感謝します。
私たちの演武とエキシビジョンを見てくださった方々に感謝します。
ไหว้